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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)1395号 判決

原告 揚妻玉明

被告 親立建設産業株式会社破産管財人 川合五郎

主文

原告の本訴請求中訴外山本研二、同横田同堀田敏雄及び同坂崎己代治の給料債権、退職慰労金債権に関する部分を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「原告の破産者親立建設産業株式会社に対する大阪地方裁判所昭和三〇年(フ)第一四五号破産事件(本件破産事件)における破産債権が金五七二三、七八五円であることを確定する。(内訴外山本研二及び同横田の債権各金五四五、〇〇〇円訴外堀田敏雄及び同坂崎巳代治の債権各金三八〇、〇〇〇円)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

「一、原告は、昭和二八年一月二八日訴外親立建設産業株式会社(破産会社)の設立以来、その代表取締役であつたところ、破産会社は、昭和三〇年九月七日午前一〇時、破産宣告(本件破産事件)を受け、被告がその破産管財人に選任され原告はその取締役を退任した。

二、原告の主張する破産債権。

(一)  給料債権金四九五〇、〇〇〇円(内原告の分金三三〇〇、〇〇〇円訴外山本研二及び横田の分各四九五、〇〇〇円訴外堀田敏雄及び坂崎己代治の分各金三三〇、〇〇〇円)。

原告、訴外山本研二、横田、堀田敏雄及び坂崎己代治は昭和二八年一月二八日から昭和三〇年九月七日まで破産会社の取締役であつた。(三三ケ月)。

昭和二八年一月二八日開催の破産会社第一回株主総会において一ケ月総額一五〇、〇〇〇円を役員給料として支給する旨決議し、これに基き同日開催の取締役会において各役員に対する給料の決定を社長に一任する旨決議し、これに基き同日原告(社長)は各役員に対する給料月額を原告金一〇〇、〇〇〇円、山本及び横田、各金一五、〇〇〇円、堀田及び坂崎各金一〇、〇〇〇と決定した。

よつて、原告等は破産会社に対し前記の給料債権(三三ケ月分)を有する。

(二)  退職慰労金債権金七〇〇、〇〇〇円(内原告の分金五〇〇、〇〇〇円、訴外山本研二、横田、堀田敏雄及び坂崎己代治の分各金五〇、〇〇〇円)。

破産会社の定款第二八条第二項は退職役員慰労金の金額時期方法は社長一任においてこれを定めると規定し、これに基き原告は昭和三一年九月一〇日退職慰労金の金額を原告金五〇〇、〇〇〇円、山本横田堀田及び坂崎、各金五〇、〇〇〇円と決定した。

よつて原告等は破産会社に対し前記の退職慰労金債権を有する。

原告が訴外山本外三名の前記給料債権、退職慰労金債権について原告として破産債権確定を請求し得る根拠は、商法第七〇条第七六条第七八条第一六六条第二六〇条第二六一条第五一二条である。

(三)  訴訟費用等立替金債権金八七、三七五円原告は左記訴訟事件において破産会社のため左記の通り訴訟費用等を立替支払つた。

(1)  大阪地方裁判所昭和二九年(ワ)第六一一七号土地建物所有権確認並に土地建物所有権移転登記抹消手続請求事件(破産会社が原告)について、昭和二九年一二月二五日弁護士出野泰男に弁護士費用金二五、〇〇〇円を立替支払。

(2)  同庁昭和三〇年(ワ)第一六八一号損害賠償請求事件(破産会社が原告)について、昭和三〇年四月三〇日、印紙代として金一二、九〇〇円(訴状印紙金九、八〇〇円、訴状訂正印紙金四〇円、追貼印紙三、〇〇〇円、準備書面印紙金四〇円、証拠説明書印紙金二〇円)謄写費用等として金一五、一〇〇円を立替支払。

(3)  本件破産事件の抗告事件について昭和三〇年九月二〇日弁護士栗本義重に対し弁護士費用として金五、四二〇円を立替支払。

(4)  本件破産事件の特別抗告事件について弁護士小西喜雄に弁護士費用として金二五、五四〇円を立替支払。

(5)  本件破産事件の申立人及び破産管財人に対する昭和三一年二月一四日各発信の内容証明郵便費用として昭和三一年二月一四日金三、四一五円を立替支払。

三、原告は、本件破産事件において、昭和三一年八月一八日、二の(三)記載の債権を、昭和三一年九月一〇日、二の(一)(二)記載の債権を、破産債権として各届出をしたが、債権調査期日において、被告は、二の(三)の(2) 記載の債権中金一二、九〇〇円(印紙代)及び二の(三)の(3) 記載の債権中金六九〇円(抗告印紙金一〇〇円、再抗告印紙金一〇〇円、郵券代金四九〇円)の債権を認めたのみでその余の債権について異議を述べた。

四、よつて原告は被告の異議を述べ右債権について確定を求めるため本訴に及んだ。」

と述べ

証拠として、甲第一ないし第六号証第七号証の一ないし五、第八号証、第九第一〇号証の各一、二第一一号証第一二号証の一ないし三第一三号証の一、二第一四号証を提出した。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の事実中、一及び三記載の事実を認めるが、その余の事実は否認する。」

と述べ、

甲第一ないし第三号証第八第一四号証は不知と述べ、その余の甲号各証の成立を認めた。

理由

原告主張の事実中一、及び三記載の事実は被告の認めるところである。

まず本訴請求中訴外山本外三名の給料債権、退職慰労金債権について破産債権確定を求める部分は原告は原告適格を欠くから却下を免れない。この点に関する原告の主張は原告独自の見解であつて採用できない。

原告の給料債権について

株式会社の取締役に報酬を支給するか否か、支給する場合のその額は定款又は株式総会の決議を以てこれを定めなければならない。(商法第二六九条)原告は昭和二八年一月二八日開催の株主総会において役員全員の総額月一五〇、〇〇〇円を役員給料として支給する旨の決議がなされたと主張し、甲第一号証にはその旨の記載があるけれども甲第一号証の成立を認めるに足る証拠なく弁論の全趣旨によつてもその成立を認めることができず他に原告主張の事実を認めるに足る証拠はない。従つて原告の給料債権についての原告の請求は失当である。

原告の退職慰労金債権について。

株式会社の取締役の退職慰労金はすでに取締役の地位を去つた者に対し、取締役の在職中における職務執行の対価として支給されるものであるから商法第二六九条にいう報酬の一種とみるべきで、退職慰労金を支給するか否か支給する場合のその額は定款又は株主総会の決議を以てこれを定めなければならない。原告は破産会社定款第二八条に基いて退職慰労金債権が発生したと主張する。弁論の全趣旨により成立を認め得る甲第八号証によれば破産会社定款第二八条第二項はこの点に関する唯一の規定として、退職役員慰労金の金額時期方法は社長一任においてこれを定めると規定している。この規定は一般的に退職役員に慰労金を支給するか否か支給する場合のその金額をすべて社長に一任した趣旨であると解されるが、かかる定款の定めは商法第二六九条の規定に反するものとして無効であると解すべきである。従つて破産会社の定款には退職役員に支給すべき慰労金の一定の金額については勿論、退職役員にその職務執行に対応する相当額の慰労金を必ず支給する旨の定めもない。定款第二八条第二項の有効を前提とする原告の退職慰労金債権についての原告の請求はその余の点について判断をなすまでもなく失当である。

立替金債権について。

原告主張の二の(三)の(1) 記載の弁護士費用金二五、〇〇〇円及び二の(三)の(2) 記載の謄写費用等金一五、一〇〇円の立替支払の事実はこれを認めるに足る証拠はない。

原告主張の二の(三)の(3) ないし(5) 記載の債権は仮りに原告主張の支払の事実ありとするも破産宣告後に生じた債権であるから破産債権とならない。

従つて立替金債権についての原告の請求はすべて失当である。

よつて原告の本訴請求中却下した部分を除くその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小西勝 首藤武兵 河合伸一)

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